フィリピン共和国

ヌエバエシハ州の熱帯林再生のための造林と山岳民の環境教育

 



サラサ地区の植林地にて。プロジェクトには子どもも参加している。動植物、山、川に触れ、考えることにより、
命の大切さ、そして人間と自然の関わりについて学んでいる。

1.マピジャ山系にある原生林。マピジャ山系はフィリピン最大の山脈、シエラマドレ山脈に属している。同山系には、Celtis Philippinensis Malaikmoなどフィリピン固有の植物、猿や山猫等の哺乳類、ボアやモニターリザードなどの爬虫類が生息している。絶滅危惧種であるPhilippines Eagleも確認されている。また、同地域は分水嶺であり、マニラ、ブラカン州、ヌエバエシハ州など周辺地域の水源となっている。
2.原生林の入り口付近。原生林は、主にキヌババワン山とピナンガナカン山の海抜400〜500mの位置に分布している。これまでは交通の便の悪さが幸いして守られてきたが、今では消滅の危機にさらされており、その保護が急務とされている。

森林破壊の現状

3.シエラマドレ山脈のヌエバエシハ州における森林破壊は深刻で、人間の踏み込みにくい奥地をのぞき、そのほとんどが丸裸になっている。現在、森林減少の主原因は、不法伐採、過放牧、山火事である。不法伐採の証拠を消そうとして放った火が燃え広がり、山火事になるケースも多い。

4. 川を利用し、伐採された木材を数日かけて低地まで運ぶ不法伐採者。不法伐採者によると、伐採者には1人あたり木材1フィートにつき1ペソ(約2.4)、木材の運搬者には1グループあたり木材1フィートにつき8ペソ(約19円)が支払われるという。
5.水牛を利用して運ばれた木材を調べる、プロジェクト責任者のNasino氏と少数民族委員会のPineda氏。発見場所、樹種、木材の寸法などを環境資源局に報告するためである。

森林破壊の影響

6.森林破壊により、山の保水力低下や地盤の不安定化が顕著になっている。近年、洪水が頻繁に起るようになり、山のいたるところに土砂崩れの跡がみられる。

7.河川においては、河岸の侵食や沈泥化が激しい。環境の変化により、植物、森林や河川を住処とする動物などあらゆる生物が被害を受けている。人間の生活も例外ではなく、鉄砲水発生に伴う飲料水の泥水化、農地や住居の破壊に苦しんでいる。

サラサ地区のコミュニティー

8.サラサ地区のコミュニティーは2000年に結成され、ドゥマガット族28世帯が生活している。電気、水道等の設備はなく、川や滝を水源として利用している。低地から同地までの距離は約30kmである。

9.住民の家。木とバナナの葉で作られた簡素なものである。
10.ドゥマガット族の親子。ドゥマガット族は独自の言語(ドゥマガット語)を話し、アニミズム的な土着宗教を信仰している。もともとは海岸部に住んでいたが、移住者の侵入によりもとの住処を追われ、森林内に暮らすようになったと言われている。
11.自然の中で思いきり遊ぶ子どもたち。山全体が彼らの学び舎だ。
12.ドゥマガット族はもともと森林資源に頼り、移動型の生活を送ってきた。以前は森林内にバナナやパパイアが豊富にあり、狩猟の対象となる動物も数多くいた。しかし現在では、森林資源の減少により食料不足が深刻になっている。最近では米を主食とする住民も多いが、ほとんどの住民にとって米を買うのに十分な収入はない。そのため、森林の再生と食料生産を目的に定住を決める人々が増えてきた。本事業には現在50名が参加し、持続可能な生活を目指して日々活動に励んでいる。

育苗

13.コミュニティーで植林用の苗木を確保できるよう、育苗場を建設した。育苗場の大きさは10m x 20mで、播種床、苗床、作業場を備えている。年間を通じて育苗作業ができるよう、サラサ川上流から、PVCパイプを使って水を引いた。

14.除草に参加する子どもたち。育苗場の維持管理は、すべて住民の手により行われた。住民主導の育苗を実現するため、2日間の育苗技術セミナーを開催した。セミナーには50名が参加し、育苗場の建設、苗木の生育状態のモニタリング、病害虫対策等について学習した。
15.育苗場では、マホガニー、メリナ、ナラ、チーク、イピルイピルなどの苗を育てた。写真はマホガニー。

緑化活動

16.すでに森林破壊が進行し、土壌侵食が激しい場所において植林した。植林地に選定されたのは、サラサ地区東部の急傾斜地4ヘクタール、丘陵部3ヘクタール、北部の1ヘクタール、計8ヘクタールである。

17.マホガニー、メリナ、竹、グリリシディア、ジャックフルーツ、マンゴーなど、合計17,235本の木を植えた。

森林回復および土壌侵食防止

18.サラサ地区では、裸地化とそれに伴う土壌侵食が深刻である。また、洪水の侵食作用によって生じた深い溝(gully)が広範囲にわたってみられる。さらなる侵食を食い止め、周辺地域への影響を減少させるため、森林回復と土壌侵食防止のための技術を導入することになった。活動を住民主導で持続的に行えるよう、住民に対する研修を行った。

19.研修は15日間にわたって実施された。研修では、森林回復と土壌侵食防止が生物多様性の保護や住民の生活の安定化にとってなぜ重要なのかを説明した上で、具体的な技術の指導を行った。

ガビオン(ストーン・チェックダム)

20.ガビオンと呼ばれる、金網と石を利用した堰である。まず、侵食の溝部分に長方形のバスケット状に金網を張る。

20.ガビオンと呼ばれる、金網と石を利用した堰である。まず、侵食の溝部分に長方形のバスケット状に金網を張る。
22.今回、サラサ地区6箇所にガビオンを建設した。これにより、周辺の森林や植林地への洪水の影響が軽減することが期待できる。

護岸技術

23.河岸の侵食を食い止めるため、ロブワムと呼ばれる護岸技術を施した。これは、竹や低木を利用した植栽護岸である。これらの植物の根が土壌を固定させることにより、水流による侵食作用を軽減させることができる。

24.こちらは、石と金網を利用した石垣。金網に石を敷き詰めた後、竹を植栽して固定する。
25.コントゥアー・ヘッジロウと呼ばれる技術で、マメ科植物、低木、草の等高線上への植栽による土壌管理法である。本事業では、傾斜農地技術の一部としてコントゥアー.ヘッジロウを取り入れた。傾斜農地の上部にアカシア、マホガニー等を植えることで、土壌侵食を防止する他、土地の保水力を高め、下部に水を供給するのが狙いである。また、自生している草を等高線沿いに残す、ナチュラル・ベジテーション・ストリップという方法も積極的に取り入れた。
26.侵食の溝部分に年間を通じてキャッサバを植えることで、土壌侵食を防ごうという試みもされている。
27.Centrocema pubiscence やColopogoniumなど、マメ科植物を地面に植えることで土壌を固定させる方法も実施している。窒素固定作用により、土壌の改良にも有効である。

環境・識字教育

28、29.環境保全活動を持続的に行うためには、住民自身がその重要性を理解し、積極的に活動に参加する必要がある。また、トレーニングを効果的に行い、持続可能な生活を目指した活動を展開するためには、ある程度の読み書きができることが望ましい。しかし、同地区には学校がなく、2000年4月時点の識字率は5%以下であった。さらに、近年低地の文化が急激に入って来たことで、ドゥマガット族独自の文化が失われようとしている。そのため、教育に対する強い要望が住民からあがり、2000年11月にサラサ学習センターを設立、12月に環境・識字教育を開始した。

30.現在、子どもクラスには16名、大人クラスには11名が通っている。地元の文化や環境に対する価値観を大切にしながら教育を行うため、地元住民で読み書きのできるDanillo Saroy 氏を講師として採用した。主な使用言語はドゥマガット語で、授業の内容によってはタガログ語を用いる。授業で取り扱う内容は森林、アグロフォレストリー等が中心である。
31.身の周りの環境に対する関心を高めるため、葉っぱや貝殻など、家の近くで見つけた自然を持参するのが課題となっている。そして、持参した物について自分なりに語り、それを文章にすることで、環境教育と識字教育を同時に行うという手法をとっている。

 

 

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