フィリピン共和国

ヌエバエシハ州の熱帯林再生のための造林と山岳民の環境教育





「不法伐採に頼らなくても生きていける方法が自分たちには必要だ!」

プロジェクト、そして自分たちのコミュニティーに架ける住民の思いは熱い。



プロジェクト の 概 略


フィリピン共和国ルソン島東部に位置するヌエバエシハ州、マピジャ山系の山々はその大部分が裸地化しています。その主原因は貧困から脱却しようとする住民による不法伐採です。このまま森林破壊が続くと、マピジャ山の 一部にわずかに残された原生林までもが消滅してしまう恐れがあります。また、森林資源の減少、洪水等の災害に よりプロジェクト地で暮らす山岳民の生活自体も脅かされています。

環境保全を促進するためには、現地住民の環境に対する意識の向上、食料の確保、そして伐採以外の収入源の確 保が必要です。ICAは1997年からマピジャ地区において、山岳民や現地の大学と協力して生物多様性の調査、植 林、識字・環境教育、アグロフォレストリーの推進を行ってきました。マピジャ地区での活動に触発され、2000 年にサラサ地区で、2001年にシレウィン地区で新たなコミュニティーが誕生し、活動が始まりました。住民は持続可能な資源利用と生き甲斐のあるコミュニティーづくりに向けて、小さな、しかしとても大切な一歩を踏み出しました。少しずつではありますが、地域の緑化が進み、住民の森林保護に対する意識も向上しています。

 


マピジャ山系の森林

1.マピジャ山系にある原生林。同山系はフィリピン最大の山脈、シエラマドレ山脈に属している。原生林 は、主にキヌババワン山とピナンガナカン山の海抜400〜500mの位置に分布している。マピジャ山系に はフタバガキ林を中心とした熱帯林があり、猿や山猫等の哺乳類、ボアやモニターリザードなどの爬虫類 が生息している。絶滅危惧種であるフィリピンワシも目撃されている。また、同地域は分水嶺であり、首 都マニラ、ブラカン州、ヌエバエシハ州など周辺地域の水源となっている。
2.サラサ地区の森林。同地区は原生林から約2kmの距離にある。1970年代から80年代にかけて行われ た大規模な伐採により森林破壊が進行し、現在見られるのは二次林である。今では伐採が禁止されている が不法伐採が絶えず、水源地であるにもかかわらず森林減少が続いている。


不法伐採

3.サラサ地区、シレウィン地区におけ る森林破壊の最大の原因は不法伐採である。乾季になると、チェインソーの 音が一日中響き渡る。
4.サラサ地区のコミュニティーの近くにある不法伐採者の基 地。不法伐採者は銃等の武器を携帯している。 彼らは低地の土地無し農民で、黒幕である「スポンサー」に雇われて働いてい る。「スポンサー」は、大手の木材会社や政治家であることが 多いという。
5.ひっきりなしに訪れる木材運搬車。最近までは水牛と川が 唯一の運搬手段であったが、不法伐採者により六輪駆動車の通 れる道が開かれ、サラサ、シレウィン地区での伐採に拍車がか かっている。

森林破壊の影響


6.森林破壊の影響は顕著で、山の保水力が低下し、地盤が不安定になっている。雨季の度に洪 水が頻発し、土砂崩れや河岸の侵食がいたるところで見られる。
7.森林破壊が水資源に与える影響は多大である。サラサ川とシレウィン川が流入するチコ川で は川床の沈泥化が進み、数年前に比べ水深がかなり浅くなった。乾季になると水量が極端に減少 し、川床が露出する場所もある。

サラサ地区、シレウィン地区のコミュニティー


8.サラサ地区のコミュニティー。低地から約30kmの距 離にある。同コミュニティーは2000年に形成され、現在19世 帯が定住している。

 

9.シレウィン地区のコミュニティー。サラサ地区から約2km の距離にある。同コミュニティーは2001年に形成され、現 在14世帯が定住している。
10.サラサ、シレウィン地区の住民はドゥマガット族である。 ドゥマガット族は独自の言語であるドゥマガット語を話し、狩 猟採集型の生活を送る。ただし、同地区の住民の多くは現在 定住型の生活を送っている。もともとは海岸部に住んでいた が、移住者の侵入によりもとの住処を追われ、森林内に暮らす ようになった。

人々の生活


11、12.移動型の生活者の家。簡素な小屋を作り、森林内を 転々とする。ドゥマガット族はもともと森林資源に頼り、移動 型の生活を送ってきた。以前は森林内にバナナやパパイアが豊 富にあり、狩猟の対象となる動物も数多くいた。
13.定住者の家。現在では、森林資源の減少により食料不足が 深刻になり、定住を決める人々が増えてきた。
14.石と薪を利用したキッチン。バナナやキャッサバを焼いて食べる。最近では米も食べるように なった。
15.人々の生活は簡素である。日の出とともに一日が始まり、日暮れとともに一日が終わる。
16.ラタン(籐)の紐を作る家族。低地に持って行き、米や日 用品と交換する。乾季の間の貴重な収入源である。しかし、低 地住民が侵入してラタンを大量に持ち出してしまうためラタン が激減し、最近では森林のかなり奥にまで入らないと見つから ないという。

 

17.無邪気に遊ぶ子どもたち。サラサ、シレウィン地区には正 規の学校や保健所などの施設が全くない。2000年時点での識字 率は5%以下であった

18.同地区の住民に教育の機会を提供し、環境保全活動を持続 的に行う基盤を築くことを目的に、2000年11月にサラサ学習セ ンターを設立した。学習センターでは、環境・識字教育、ア グロフォレストリートレーニングなど各種の研修やセミナーを 開催している。

育苗

19.サラサ第1育苗場で育てられたバンレイシ の苗木。サラサ第1育苗場は、学習センターの横にある。この他、大葉マホガニー、カリ ン、イピルイピル等を育てている。
20.サラサ第2育苗場。播種床と苗床だけの簡単な造りで、 2002年1月に準備された。ここではマホガニーを育てている。
21.苗木用ポットでの育苗と、畝に直接植える育苗を試みた。 プロジェクトスタッフの指導により、植林活動に備え、畝に直 接植えた苗木を掘り出している参加者。

水源地での植林

22.森林再生を目指し、水源地周辺における植林活動を行った。「ボロ」と呼ばれる鉈で草を刈り、植 栽に備える住民。
23.2001年12月、2002年6月〜8月にかけて植林した。植林面積は53.6ヘクタール、植付本数は45,855 本である。主な樹種は、マホガニー、メリナ、カリン、ギンネムなどの多目的樹、グヤバノ、バンレイ シ、マンゴーなどの果樹である。
24.植林には子どもたちも参加した。木を植え、育てることで、森林の役割や環境保全の重要性につい て学んでいる。

25.植栽後約一週間は苗木に毎朝水をやる必要がある。子どもたちが交代で水やりを行った。


アグロフォレトリーの推進
26.森林再生、土壌侵食防止、食料確保を目的に、アグロフォレストリーの研修と実践を行った。多層 混農林について説明するプロジェクトディレクターのナシノ氏。
27.研修は、アグロフォレストリーの基礎と多層混農林の技術を中心に行った。参加者は、学んだ技術 を各自の農地で実践している。写真は、とうもろこし、里いも、シカクマメ、マホガニー等を用いたア レイクロッピング。
28.この畑ではグリリシディアをヘッジロウとして利用し、カボチャ、さつまいも、豆類などを植えて いる。
29.裸地で、表土流出の激しかった場所を利用してアグロフォレストリーを実践しているマルポック 家。米、キャッサバ、里イモと一緒に大葉マホガニーやギンネムを植えた。これらの植物は食物として はもちろん、被覆作物としても有効だ。

土壌侵食防止・森林回復技術の調査

 

30.2001年11月から2002年8月にかけて、「農林業的アプロー チの土壌侵食防止の有効性」と「プロジェクト地における土壌 侵食防止の実践例」について調査した。写真は、被覆作物とし てキャッサバを植えた斜面を調べる調査リーダー、サッカル 氏。

31.20名のプロジェクト参加者と協力し、植生の回復による表 土復元を試みることにした。採用したのは、地被植物、被覆作 物、マルチング、NVS(Natural Vegetation Strip)で、これらを多層混農林と組み合わせた。写真は、米、さつまいも、キャッ サバを被覆作物として利用した例。
32.土砂崩れのあった場所への森林樹木の植栽も実施してい る。ウエスリアン大学農学部の学生がボランティアとして参加 してくれた。

環境・識字教育

33.周囲の自然への関心を高め、持続可能な生き方を実現できるよう、環境・識字教育を行っている。 講師は地元出身のサロイ氏である。教材には教科書の他、動植物のポスターや塗り絵を利用している。 ディスカッション、クイズ、野外活動など、参加者が楽しみながら学べる方法を多く取り入れている。
34.コミュニティーの長老であるターザン氏も出席している。「このような学びの機会があれば、僕の 孫たちの将来は明るいな。」ターザン氏はそっと呟いた。

持続可能なコミュニティ−開発に向けて...

35.住民主導で長期に渡って継続できる活動を実施するため、プロジェクト開始前に住民会議を 開催した。プロジェクトの進め方、活動内容等について住民と話し合うプロジェクトディレク ター、ナシノ氏。プロジェクト期間中、必要に応じて幾度も会議を行う。
36.住民参加型のモニタリングを行う日本人ファシリテーター、長谷川氏。住民と話し合いの場 を設けると、彼らがいかにたくさんの知恵やアイデアを持っているかに驚かされる。これらがコ ミュニティー全体で共有されることが、持続可能なコミュニティー開発への一歩となる。現在は プロジェクトスタッフが会議の進行役を担っているが、今後は住民の中にファシリテーターを育 てたいと考えている。 .

 

 

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