フィリピン共和国

生物多様性保護のための環境教育



ビグナイ地区は低地から約16kmの距離にあり、約150世帯が暮らしている。同地区は、環境資源局によ り重点植林地に定められているにもかかわらず、これまでほとんど活動が行われてこなかった。また、 ここには学校がなく、多くの住民は読み書きができない。環境教育と識字教育を行うという夢を実現す るべく、住民の手による環境教育センターづくりが始まった。

プロジェクト の 概 略


プロジェクトの目的(Project Objectives

・ 山岳地住民の環境学習の場を作り、森林保全と生物多様性に対する理解を深める。

・ 地域住民が一体となって持続可能な生き方について考え、活動できる機会を作る。

・ 環境・識字教育により、持続可能な地域づくりに取り組める人材を育成する。

・ すでに裸地化した場所で植林活動を行い、水源林を再生する。

・ 食料確保と森林再生のため、住民の知恵を活かしながらアグロフォレストリーを推進する。

ビグナイ地区における2002年度の主な活動(Major activities planned in Bignay for 2002.4 - 2003.3)

・ 環境教育センターの設立。

・ あらゆる年代と対象とした環境・識字学習プログラム。

・ 水源林再生のための植林。

・ アグロフォレストリーおよび水資源・土壌保全技術の推進。

・ 住民参加型のモニタリング/評価。

成果(Accomplishments and Effects)

・ 住民自らの手で環境教育センターを建設した。

・ 環境教育センターの建設を通じて、住民は団結と協力の大切さをより深く認識するようになった。

・ 住民が植林用の苗木を育て、19,290本の木を植えた。

・ 給水ポンプの設置により、センター周辺での飲料水と灌漑用水が確保できるようになった。

・ 荒れ地をアグロフォレトリー用地として利用する住民が出てきた。それにより、草地であった場所に森林樹木、 果樹、穀物、野菜が植えられた。中には、自給用の食料に加え、余剰作物を得ることができた人もいる。

ビグナイ地区の自然

1.様々な命を育む森林。

2.漁の名人カワセミ。リオチコ川周辺で、毎朝 その美しい姿を現す。

3.同地区には幾つもの滝がある。写真の滝の近くでは、岩つばめの巣を 見つけた。

4. カラバオリパと呼ばれる蔓植物。細かい毛が特徴的で、体に付く と猛烈にかゆい。

5.川を覘けば、種々の魚が泳いでいる。この魚 は、ミリオンフィッシュと呼ばれている。

ビグナイに暮らす人々

6.ビグナイ地区への入り口。ビグナイ地区のあるジェネラル ティニオ郡の山岳地は、先住民が先祖代々の土地を奪われ、資 源を搾取されるという問題を抱えている。そのため1998年に、 同地の先住民であるドゥマガット族に、ビグナイ地区を含む 17,877ヘクタールの慣習的領地保有権が認められた。なお、 1998年以前から住んでいる他民族の人々の居住権も認められて いる。

7.ビグナイ地区には、ドゥマガット、タガログ、イロカノ、 ビサヤ族など複数の部族が暮らしている。ダルマシオ・リベラ 氏は低地からの移住者。スイカなどの作物の栽培、炭焼きで生 計を立てている。

8.アリエル・ロドリゲス一家は、ビグナイ村の入り口付近に 新しい家を建設中。土地は低地在住の地主から借りている。土 地の保有者には低地の地主も含まれているためである。

9.人々の主食のひとつは米で、稲作を行っている住民もいる。 収穫した米は、写真の杵と臼で精米する。

10、11.お手製のギターを鳴らすアマド家の次男、 ジェロウィンさん。彼は昨年、父親を亡くした。農業に、家事にと、母親のノーマさんとともに家族を支えて いる。

12.乾季になると、ビグナイ地区の至る所で炭焼きが行われ、 多くの木が山から伐りだされる。炭焼きでは若い木も利用さ れてしまうため、森林減少の要因になっている。

13.川で漁をする村人。ビヤと呼ばれる小魚、川えびは貴重な タンパク源、そして収入源である。最近は低地から不法に漁を しに来る人が絶えず、乱獲が懸念されている。不法漁者は電気 を使って一度にたくさんの魚を取っていく。

14.砂金採りで生計を立てようという人もいる。1グラムにつき 450ペソ(約1,000円)の収入が得られるという。通常一週間で 1〜2グラムの砂金が採れるそうだ。

15.朝になると、川で洗濯したり、行水したりする姿があちこ ちで見られる。これらの水源は、生活の場として貴重な存在 である。

壊れゆく森林

16.ビグナイ地区から約20km先には、わずかながら原生林が残されて いる。ヌエバエシハ州は、もともと森林資源の豊富な地域で、山々はフ タバガキ林に覆われていた。しかし、第二次世界大戦後に盛んに行わ れた商業伐採により、森林は急激に減少した。ビグナイ地区周辺では、 伐採が許可された林地はなかったにも関わらず、公然と伐採が行われて いたという。

17.現在も不法伐採は行われている。2001年に不法伐採者により車 両の通れる道が開かれて以来、伐採に拍車がかかっている。乾季になる と、一日3〜5台の木材運搬車が行き交う。

18.不法伐採者の多くは低地の土地無し農民である。また、先住民を含 む高地住民の中にも不法伐採に手を出す人がいる。彼らは政治家などの 黒幕に雇われ、日々の糧を得るために木を切っている。写真の少年は若 干16才である。家計を支えるために不法伐採を行うのだという。材木の 切り出しから運搬まで一ヶ月かけて働いて、6000ペソ(約14,000円)の 報酬を受け取る。

19.大規模な伐採が続いた後、何度も火が入ったために、ほと んどの山が草地化してしまった。山火事の原因は、酪農、狩 猟、野焼きの飛び火、放火である。生えているのは主にチガヤ で、自然発火しやすいため、草地化はさらなる山火事の原因と なる。

20.森林を失った山は脆い。保水力の低下により、雨季になる と毎年鉄砲水が発生するようになった。鉄砲水は家や農地を洗 い流し、尊い命を奪う。また、河岸侵食や川床の沈泥化を引き 起こす。同方向になぎ倒された木々が、鉄砲水の威力を物語 る。

21.乾季になると、今度は水不足が深刻になる。乾季中のリオ チコ川の水量は、年々低下している。写真の場所では、2002年 1月には水深60センチ以上あったが、2003年1月には水深20セ ンチ以下であった。

22.ビグナイ地区の住民は、コミュニティー内に教育施設を持 つことをずっと希望していた。また、人々が地元の環境につい て学び、考える機会を提供できる場所が必要とされていた。住 民と話し合った結果、環境教育センターを設立することになっ た。まず最初に、住民自らがセンターのデザインを作った。

23.完成したデザイン。建物の骨格は木材、土台はコンクリー ト、壁は竹製マットである。木材や竹は、フィリピンの農山村 で建設によく使われる資材だ。

24.こちらはフロアプラン。椅子、机、黒板、鉢植えの設置さ れた教室の他に、トイレも描かれている。住民の描いたデザイ ンをもとに大工と相談し、最終的な設計図を作った。 .

25.2002年4月20日、環境教育センター建設のための準備が始まっ た。砂、砂利、木材の一部は住民自らが調達し、水牛で運んだ。

26.日曜の早朝、力強く鍬が降りおろされた。いよいよ、工事の始まりだ。

27.建物の基礎工事。地元の大工のアドバイスを受けながら、住民自ら の手で造り上げていく。自分の家は自分で造るのが当たり前のビグナイ 地区では、簡単な大工仕事に慣れている住民が多い。

 

28.屋根工事。草葺きの屋根にすることも考えたが、雨季が8ヶ 月以上と長いことから、耐久性を考慮して鉄板を利用すること にした。

29.環境・識字クラスの講師のための宿泊施設を教室のわきに 建設した。

30.計画当初、女性は自分たちの役割は資材の運搬や炊き出し だと言っていた。しかし、いざ蓋を開けてみると、建設作業に も積極的に参加し、多くの役割を果たした。

〜環境教育センターの外観と講師の宿泊施設〜

31.環境教育センターの建物は2002年10月に完成した。建物の寸法は7m x 9mである。前庭は観葉植物で彩られている。

32.講師の宿泊施設。簡素なキッチンを備えている。

33.ビグナイ地区で第一号の便器が設置された。

環境・識字学習

34.現在、環境教育センターでは、環境・識字教育が実施され ている。講師は、フィールドスタッフのカボタヘ 氏である。簡単な読み書き、算数、身近な自然に関するディスカッション 等、ポスターやカルタを用いながら授業を進めている。

35.授業中に子どもたちが描いた作品は、教室内の掲示板に展 示されている。

36.ビグナイ地区で継続的に環境・識字教育を行うためには、 住民自身が講師なることが必要である。高校に通った経験のあ るキハノ氏が、トレーニングを兼ねて、アシスタント講師と なった。

37.大人を対象とするクラスも開かれた。市販のテキストは一 切使わず、コミュニティ−内の問題について話し合うというス タイルをとった。話題としてあげられたのは、山火事、不法伐 採、不法な漁などである。

38、39.2003年2月6日に、環境教育センターの落成式を開い た。落成式にはビグナイ地区住民43家族、フィールドスタッフ 3名、ナシノ氏(プロジェクトディレクター)、バランス氏 (城西国際大学から訪れていた研究者)、長谷川(日本人コー ディネーター)が出席した。

40.2002年6月に植林用の苗木を育て始めた。実際の作業に入る 前に、住民を対象に育苗場設立や育苗技術についてのセミナー を実施した。大葉マホガニー、アカシアアウリ、ギンネム、カ リン、メリナを育て、植栽した。

41.2003年1月、前年に建設して育苗場を環境教育センター横 に移動した。環境教育の一環として、子どもたちが育苗作業に 毎日取り組めるようにするためである。2003年3月現在、約1万 本のカリンが芽吹いている。 .

42.育苗場で育てられた苗木は、プロジェクト参加者の農地 周辺と環境教育センタ−周辺に植栽された。植えたのは、カリ ン、大葉マホガニー、ギンネム、アカシア等の多目的樹と、 マンゴーやバンレイシなどの果樹19,560本である。

43.ビグナイ地区は山間にあり、土地の傾斜度は18〜45度で ある。森林破壊による影響で、各地にガリ侵食や土砂崩れが見 られる。現時点では食糧生産は十分ではなく、住民は食糧増産 と緑化の両立を望んでいる。そのため、傾斜農地技術を中心 に、土地の有機的な複合利用法であるアグロフォレストリーを 導入している。ルディン氏は、Aフレームを用いてベンチてラ スを作った。

44.アマド家の水田では、斜面に多目的樹や果樹を植える予定 である。

45.アバロス一家は、ニガウリ畑を作った。畑の回りには、マ ホガニー、メリナ、マンゴーが植えられている。

46.農地の近くに作られたベジテイティブ・チェックダム。等 高線沿いの植栽による土壌侵食対策である。通常、グリリシ ディアや竹を使う。

47、48.住民がアグロフォレストリー技術を学べる環境を作る ため、センターの回りにモデル農場を作った。ベンチテラスが 安定すれば、多層混農林など様々な技術を紹介する予定だ。 収穫物の一部は、センターに通う子どもたちの給食用の利用し たいと考えている。

 

水は命...

49.ビグナイ地区では乾季の水不足が深刻である。住民の飲料水と灌漑用水を確保するため、センター の近くに給水ポンプを取り付けることにした。7日間掘り続けて、やっと水に辿り着いた。

50.約20mの地下から出てくる水は、冷たくておいしい。

現地の人々の声
・ 自分の手で環境教育センターを建てられたことがうれしい。これからは、大人も子どもも読み書   きの学習ができる。

・ 環境・識字クラスに出席している。読み書きができるようになり、数も数えられるようになると   思うと楽しい。

・ このプロジェクトに参加する前、私は内気で他人と関わるのが苦手だった。今では自信がつき、   政府役人を含め色々な人とコミュニケーションをとれるようになった。

・ 不法伐採が行われている山と、森林が残っている山では大きな違いがある。後者 には様々な命が  息づいている。だが、これらの森林にも炭焼きや不法伐採の手が伸びつつあり心配だ。

今後の活動予定

森林と人の共生を目指した様々な活動を展開します。2003年度の主な活動は、環境教育センターでの 環境・識字学習、アグロフォレストリー、植林地や農地のための灌漑設備の充実です。センターでは 近い将来、低地の住民を招き、高地住民と低地住民が森林やアグロフォレストリー等についてともに 学べる機会を設けたいと考えています。また、住民から、農林産物を売るためのミニ・マーケットの 開催や、協同組合設立の案が出ています。

         

ビグナイ地区では乾季の水不足が年々深刻になっています。住民にとって飲料水と灌漑用水の確保は 差し迫った課題です。2003年2月に、ナシノ氏と長谷川が同地の農地と最寄りの水源を回り、住民と ともに灌漑設備構築のための調査を行いました。ビグナイ村には環境資源局の支援で建てたものの、 水漏れが原因で使えない貯水タンクがあることもわかり、修理することになりました。

 

 

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