フィリピン共和国

生物多様性保護の為の環境学習と
森林の再生

 
このプロジェクトは、フィリピン共和国ヌエバエシハ州、ジェネラル・ティニオ郡バランガイ・リオチコのビグナイ地域において、現地住民による水源の森林と生態系を回復する努力を援助するものです。プロジェクトの目的としては、 土壌浸食の軽減、地域の動・植生の回復、および動植物相の存続に優しい環境条件の復旧があげられます。更に、自然破壊を防ぐ植生環境の構築と、地域の景観の美化を含みます。このプロジェクトはビグナイ住民組織を主体として、ICA文化事業協会と現地NGOであるLUCRE(Lowland Upland Community Re-Engineering)の補助と経団連自然保護基金の援助を受けて、2004年の4月から2005年の3月にかけて実施されました。

具体的な活動としては

  • 子供たちに対する環境識字教育
  • 傾斜地農法、アグロフォレストリーに関するセミナーと実習
  • 植林

があげられます。それでは写真を見ながらこの一年の活動を振り返ってみましょう。



上の写真は2年前にビグナイに作られた環境教育センターで行われていた環境識字教育の風景です。5歳から15歳の子供を対象にしています。左側の写真に写っている赤いシャツの人がジェリコ先生です。彼は識字クラスだけでなく、隣村の小学校に通う子供たちの宿題を見てあげたりと「村の先生」といった存在で、母親の方達も絶大な信頼を寄せています。

ところで、「環境」識字教育とは何でしょう?これは従来の読み書きの練習において、題材を子供たちの身の回りで見受けられる山や川、植物などの固有名から取るものです。これにより、子供たちに自然環境への興味を喚起すると同時に、その大切さも教えることが出来ます。次の段階としては実際に名前を書き、読めるようになった物体を教室に持ち込み、その経済的価値、ハーブなどに関しては医学的利用法なども教えました。

このプロジェクトでは環境の大切さを教えるだけでなく、その再生にもチャレンジしています。ビグナイ周辺は数十年前からの大規模な伐採活動のため、ほとんど山に木が無い状態です。表面の樹木を失った山はそこを住み家にする動植物の多様性の喪失、保水性の低下による乾期・雨期に見られる不安定性など、住民生活に多大な影響を及ぼします。

山に再び森を再生させるため、育苗・植林活動を続けています。今年度はランカ、マラウェラウェの両地区に育苗場を設置しました。ビグナイ環境教育センター裏のものと合わせ、現在3つの育苗場で苗が育てられています。使われている苗には、キダチヨウラク、インドシタンなどに加え、アリバンバンやタンプイといった現地で採取された種も入っています。現地種は採取の際に成育環境も記録され、なるべく似た環境に植樹するように気をつけられています。

ビグナイは山間のコミュニティーです。それゆえその土地のほとんどが起伏に富んでいて、平坦な場所の方がめずらしい地形です。こんなところで農林業を行うには、地形を考慮した特別な技術が必要になります。その一例は左上に見えるAフレームというテラス作りにつかう道具です。この道具は竹とひもと重りがあればだれでも作ることができ、重力を利用して水平面を作ることが出来ます。

真ん中の写真では、Aフレームによって作られたテラスの縁を竹で補強して土壌の流出を防ごうとしているところです。竹は、チェックダム作りにも活躍しています。右上の写真は、村のあちこちにある小川の一つに作られたチェックダムです。乾期には干上がってしまうような細々とした流れですが、雨期になると増水し、岸を削りながら土壌を流してしまいます。このような簡単なダムを造るだけで、水による浸食作用を和らげることが出来るのです。

一心に鍬を振るうこの方が、ナシノ教授です。ヌエバエシハ州の大学で教鞭をとる彼は、農林業の専門家で、10年近くにわたりICAのフィリピン事業に協力し続けてくれています。この事業ではアグロフォレストリーと傾斜地農法のセミナー・実習を担当しています。彼と教え子を中心とする弟子達(識字教育で活躍するジェリコ先生もその一人)の尽力なしにはこの事業の成功は難しかったでしょう。

右に見えるのがセミナーの参加者であるマノンさんによって実施されたアグロフォレストリーの例です。マンゴー、マホガニー、ココナッツ、アボカド、バナナなどの木の下で、生姜、根菜の一種であるガビ、サツマイモ、キャッサバが植えられ、乾季にはこれらはモンゴ豆などに置き換えられます。緑化と農作物の収穫を同時に達成しようというこの試みはマノンさんのように好奇心の強い人たちから次第に村の中へ広がっていきます。

【活動継続の必要性】

左の写真は何でしょう?答えは河原で行われていた炭焼きです。右の写真は、川の流れを利用した材木の移動です。村の中を流れるリオチコ川で見つけました。炭焼きには当然、樹木が必要です。村人は「流木を使っている」と言っていましたが、明らかに生木も混じっていました。いくら森林保護の大切さを訴え、植林を行っても、人々にとって一番大切なのは、日々の糧をどうにかして手に入れることです。国により伐採が違法化され、材木を直接売るのは危険ですが、その場で出来る炭焼きは手っ取り早くお金を稼ぐ方法としてなかなか無くなりません。

このプロジェクトでは、ただ木を植えるだけでなく、アグロフォレストリーにより収入向上を図ったり、環境教育を通じて啓蒙活動も行うことにより持続性を考慮しています。しかし、3年という一区切りが付き、これで手を引くわけにはいきません。プロジェクトに参加したのは広いビグナイ地区の一部の人々だけです。活動が伝播していくように、今後も村人の努力を支えていく必要があります。

【自然の猛威】

2004年の秋に現地を襲った台風による被害は、ビグナイの人々の気持ちにも変化を起こしました。上流から鉄砲水により流され、下流の町の端に溜まった流木の山、全てが洗い流されてしまった環境教育センター裏のモデル農林は、このまま山を放置しておくことの危険をまざまざと見せつけました。ルソン島全土でたくさんの犠牲者を出した災害でしたが、幸いにもビグナイにおいては人的被害はありませんでした。この台風の後の人々の態度からは、「次はこれではすまないかもしれない」という緊迫感が感じられました。この気持ちを後押しして、彼らの活動継続を支え続けられたらと思います。

【人々の声(上の写真は彼らにより復興された環境教育センター裏手)】

  • エルヴィ・ロドリゲス(現ビグナイ住民組織リーダー):日本の皆さん、私たちの植林活動を支援してくださってありがとう。政府は全く助けてくれませんでした。
  • アナスタシオ・プリンシペ(前住民組織リーダー):3年間に亘った活動が終了し、あなた方と別れる日が来るのは辛いが、私たちが始めたこの活動を終わらせるわけにはいかない。私たちの潜在的な能力に気づかせてくれた日本の人々に感謝する。
  • マナン・コンチン・デラ・クルス(雑貨店経営者):独立してあなた方が教えてくれたことを本当に身につけることが出来たのか試してみるのも良いものです。でもいつかこのプロジェクトが戻ってきて私たちと働いてくれることを願っています。
  • タト・リベラ(ビグナイ地区政府責任者):あなた方がこんなにも早く去ってしまったら、人々の規律を保つのは難しいでしょう。彼らはまだ準備ができていません。しかし、これが避けられないのならば、私たちは団結し、あなた方が教えてくれた森を守るための規律に従うほかはないでしょう。
  • フィービー・グレース(識字教育生徒):ジェリコ先生がいなくなったらだれが土曜日に算数と科学の宿題を見てくれるんだろう。